徽章はバッジにしてピン

世界の徽章文化を考察するブログ。というか、バッジが大好き。コレクションを紹介したり、バッジに関する情報を考察したり。実用性皆無、実生活への寄与度ゼロ保障のブログです。

日本 迷子札

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「立てば這え、這えば歩めの親心」、とはいうものの、実際小さな子供が自由に行動できるようになってみると、危なくて目が離せない。子供自身の危険もさることながら、現代の住宅には様々な電子機器、精密機械がゴロゴロしているのであって、子供の好奇心のおもむくまま、それらをいじくり回されてはかなわない。

それはともかく、好奇心だけはありあまっても、いざ迷子になると自力では帰巣できないこのチビ怪獣どものため、昔は「迷子札」というモノを身につけさせたりした。

様々な形があるが、おおむね真鍮や白銅製で、住所や名前が刻まれたメダルが多いようだ。
画像のメダルがその迷子札で、住所と氏名が手彫りで書かれている。
神戸市中山手通四丁目八三番屋敷 廣嶌栄二郎 長男 三郎
全体はヒョウタンの形をしており、これは伝統的な吉祥図である。表面には、これも手彫りでヒョウタンの葉や巻きヅルが描かれている。製作時期は不明だが、明治から大正期のものと想像している。

ところで、持ち主のこの子は、なんで長男なのに名前が「三郎」なんだという気もするわけだが、廣嶌家ではすでに1番目と2番目の男の子が幼くして亡くなったのだろう。だから三郎という名にして長男なのだろうと思われる。
昔は、子供4人のうち成人を迎えたのは1人、なんていう話はざらにあり、いかに乳幼児にとって死の危険が身近な恐ろしい環境だったか、逆に言えば、いかに現代が医学的栄養学的経済的に恵まれた環境かということを、ここで改めて考えるべきだろう。

この神戸生まれの廣嶌三郎君が無事に成長したかどうかは知るよしもなく、いずれにせよとうに他界しているはずの人だろうが、きっと彼は親の期待にこたえて元気に育ったと信じたい。

迷子札は、子供が常に身につけているモノとて、迷子札は擦り切れたり汚れたりしているのが常で、中には小さなお守りが一緒につけられていたりする。
実に、子供の身を案じる親心が伝わる、暖かくも切ないアイテムである。