髑髏がおどろおどろしく描かれたバッジ。人間の頭蓋骨というより、なんとなく「風の谷のナウシカ」に出てくる巨神兵を思わせる。殊更に不気味さが強調されている。
何のバッジ化と裏面をひっくり返すと、日本変態心理学会会友章とある。
ところで、変態心理学、とは何か。
中村古峡「変態心理学講義」(大正12年、東京日本変態心理学会)によると、以下のような記述がある。まず「緒論」にいう。
変態心理とは、吾々の普通の精神現象から外れている有らゆる異常な、または特殊な心理作用を総括した名称である。従って其の範囲は非常に広い。
変態心理に対する世人の一般の共通の誤解は、これを以て直ちに病的または不健全を意味するものと考えていることである。それはしかし狭義の見方たるを免れぬ。広義に於ける変態心理には、すべて常人の状態心理から外れたものなら、より善なるものも、よりあくなるものも、より健全なるものも、より病的なるものも、否寧ろ善悪病健など云う規範を全く離れて、有らゆる異常な心理が含まれているのである。
そして、変態心理学の定義について。
変態心理学とは、普通の精神現象(意識または行動)から著しく外れている変態な、異常な精神現象(意識または行動)を科学的に研究する学問である。
精神現象の研究に於ける普通心理学と変態心理学との関係は、丁度肉体の研究に於ける生理学と病理学とのやうな関係に立っている。只その異なるところは、生理学は肉体の健康状態、また病理学は肉体の病的状態のみを主として研究するのに対して、変態心理学は、前にも既に述べた如く、単に病的若しくは不健全なるものばかりでなく、普通の精神現象よりも量に於ても質に於ても、より優れたものまで其の研究範囲に取込んで居ると云ふ点にある。
通常の心理学を外れたところが学問対象になっているのであり、天才もまた異常なのであって、変態心理学は対象とするのである。
具体的には、以下のような分類が示されている。
1欠陥又は例外的心理:白痴、低能児、変質者、犯罪者、天才者等の心理研究=(犯罪倫理学は其の一)
2一時的変態:各種精神作用の変態、並びに睡眠、夢、夢遊、催眠、自働、人格変換等の研究=(狭義の変態心理学)
3永続的変態:神経衰弱、精神薄弱、ヒステリー、早発性痴呆、其の他各種の精神病研究=(精神病理学)
4心霊的現象:精神感応、交霊現象、千里眼的能力、心霊物理現象等の研究=(心霊学)
5治療的方面:催眠術、臨床催眠術、精神分析法、其他各種の変態心理治療の研究=(精神療法学)
心霊学まで含むあたりは何となく時代を感じるがいたって学術的な心理学の一分野であって、「変態心理」という字面に引きずられて妙な連想をする必要はないのである。
そもそも「変態」の語意は、goo辞書によると以下のとおりである。
へん‐たい【変態】 の解説
[名](スル)
1 形や状態を変えること。また、その形や状態。
2 普通の状態と違うこと。異常な、または病的な状態。
3 《「変態性欲」の略》性的倒錯があって、性行動が普通とは変わっている状態。また、そのような傾向をもつ人。
4 動物で、幼生から成体になる過程で形態を変えること。おたまじゃくしがカエルに、蛹 (さなぎ) がチョウになるなど。
5 植物で、根・茎・葉などが本来の形から変化し、著しく異なる形態をとること。葉がとげとなるなど。
6 同じ化学組成で物理的性質の異なる物質の状態。温度変化などによって生じることが多い。単体の場合には同素体という。転位。
今や世間では3の「変態性欲」の部分が真っ先に連想されるだろうし、現代のネットでも「hentai」と言えばどのようなジャンルを指すのか、詳しくない人でもまあ大方の大体想像はつくだろう。
それにしても、なんでこんなデザインのバッジにしたのか?というのが不思議なところだ。
バッジの土台と髑髏は別パーツで作られており、髑髏の目は赤い透明七宝で彩色されている。よく見ると凝っている。
うーむ、どうなんだろう、まじめな学術団体のはずなのに、なんでこんなに禍々しいデザインになってしまったものか。発注者の意図とメーカー(※東京日本橋区のミカド徽章製作所)の解釈がずれたのか。
まあ、真相は不明である。