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日本 叙勲の候補者はあなたも推薦できます! ~叙勲候補者の一般推薦~

 

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今日は文化の日。このところ何かとドタバタしている私だが、秋の平和な一日を過ごした。

さて、文化の日といえば秋の叙勲の日でもある。例年、新聞各紙を叙勲者の名前が並ぶ。しかしまあコロナ禍治まらぬ状況では、式典も盛り上がりにくいのが実情であろう。まして受章者はコロナウイルスのリスクが特に高い高齢者ばかりなのである。

ところで先日、「春秋叙勲の候補者としてふさわしい方の推薦(一般推薦)について」という政府広報をネット上で見かけた。

今日はこの叙勲における一般推薦を取り上げてみたい。

 

(こちらも参考に)

社会に尽くした人に広く栄誉を より身近になった叙勲・褒章|政府インターネットテレビ

 

一般人には縁遠い存在と思われている叙勲。多くの叙勲は各府省庁の推薦で行われているので当然であろう。しかし、「一般推薦制度」が平成15年に創設され、制度上は誰でも推薦することができる(もちろん様々な要件はある)。

では、ここで内閣府の公式サイトで掲載されている推薦様式、記入例を参考にしながら、具体的に誰かを推薦する気持ちになって読んでみよう。

推薦に当たっては、推薦書一通と賛同書2通内閣府賞勲局まで郵送する。

「この制度は、各府省からはなかなか把握されない功労等を把握するために設けられた制度で、一般の方が、「この人は叙勲に値する!」と考える人がいれば、その人を内閣府賞勲局に対して推薦できる制度です。」というのがその意義だそうだ。

実際にどのような人を対象にできるのか。要件は以下のとおり。

推薦対象者(被推薦者)は、以下の(1)または(2)に該当する方となります。
(1) 国家または公共に対し功労のある70歳以上の方
(2) 国家または公共に対し功労のある55歳以上の方で、
(ア)精神的または肉体的に著しく労苦の多い業務に精励した方
(イ)人目に付きにくい分野にあって多年にわたり業務に精励した方

一応55歳以上になれば対象とはなるものの、かなり特別に認められない限りは70歳未満での受章は難しいと考えた方がよさそうだ。また、自分自身や二親等内の親族を推薦することはできない。

こういう制度が利用されることは結構なのだが、よく言って玉石混交、種々雑多な推薦が寄せられることが想像される。どのくらい推薦があって、どのくらい受章に結び付いているものかが気になる。

内閣府賞勲局の有識者会議の資料にはその結果が掲載されている。

栄典に関する有識者 : 日本の勲章・褒章 - 内閣府

それによると、平成15年の一般推薦制度開始以来、平成29年まで1,479件の推薦があり、平成30年までに140件の受章が行われている。

平均すると年に推薦件数は98.6件、受章件数は約9件、当選率は9.5%。だいたい1割程度か。

この割合を高いと見るか、低いとみるか。受賞者全体の数は年8,000件なので、一般推薦が約9件では1,000分の1程度に過ぎない。受賞者全体から見ると極めてレアな存在と言え、まして55~69歳層の一般推薦受章者など、激レアといっていい。

政府としては平成15年の栄典制度改正の目玉の一つであった一般推薦の実績を広げたいのだろうが、おそらく救いようがないような推薦も多数あるであろう。その中から受章者にふさわしい人物を掘り起こさねばならない担当者の苦労がしのばれる。

実際、推薦書とはどんなものでどう書けばよいのか、上記サイトの記入例を見れば明らかである。思ったほど様式自体は難しいものではない。

推薦書で最も重要なのが「被推薦者の略歴」と「推薦理由」である。

「被推薦者の略歴の職名」欄の記入例を見てみよう。一般推薦の対象として想定されている人物像が見えてくるのである。

(社)○○市○○業協会会長

(財)○○市体育協会理事

民生・児童委員

保護司

養護老人ホームへの訪問活動、独居老人への食事の提供等のボランティア活動に従事

○○県知事表彰(高齢者福祉功労)

現実問題として、この辺りの人(こういう肩書を持っていて長年の実績があって70歳以上の人)は比較的通りやすいのであろう。 

 

また、賛同書の記入例は次のとおり。

○○氏は、(社)○○市○○業協会会長として○○業の発展に努めるとともに、(具体的事案)を行い、地域経済の活性化に大いに寄与しており、地域振興の牽引車的役割を果たしている。
 また、青少年に対する○○競技の指導を自らの時間を割いて長年行っており、スポーツを通じての青少年の健全育成や市民へのスポーツの普及に寄与している。
 さらに、民生・児童委員や人権擁護委員として地域住民のいろいろな相談に気軽に応じ、親身に助言を行っており、地域の福祉の向上や基本的人権の擁護などに取り組んでいる。
 なお、自らサークルを結成し、養護老人ホームで劇を演じ、入所者に楽しみと活力を与えており、また、独居老人へ食事を配食する活動も行っており、率先して高齢者福祉の向上に貢献している。
以上のことから、○○氏の公共に対する功労は大きいものと考えられ、△△氏が○○氏を春秋叙勲の候補者としてふさわしい者として推薦することについて賛同する。

 この辺が、まあ一般推薦制度の現実なのだろうなあと思えてくる。

一般の府省庁から推薦される叙勲であっても、その人物の肩書(例えば、市町村長であれば人口規模や在籍年数、企業であれば資本規模、国会議員であれば役職やその在籍年数)勲位の上下を決めるのであって、一般推薦も同様である。

どんな人格者であろうと、周囲から慕われていようと、叙勲対象となるとその判断は極めて難しい。困るのがいわゆる「身体検査」で、叙勲が決まった後に不祥事を起こすことなど絶対にあってはならないことなのである。被推薦人の犯罪歴なども調べておく必要があるだろう。栄典の権威を損ねるようなことは許されない。

内閣府に寄せられる一般推薦書が、どのような議論を経て結果が出されるのかは全くブラックボックスである。内閣府としては、一般推薦を拡大したいという目標と、しかし客観的に基準を決めにくい推薦者をどのように選び格付けするか、悩ましい問題を抱えているはずである。落選者からは不満苦情も来るかもしれない。

なんだか担当者も大変そうだね・・・