徽章はバッジにしてピン

世界の徽章文化を考察するブログ。というか、バッジが大好き。コレクションを紹介したり、バッジに関する情報を考察したり。実用性皆無、実生活への寄与度ゼロ保障のブログです。

IOC会長、トーマス・バッハ氏のバッジの正体は?

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東京オリンピック開会式であいさつするバッハ会長(左襟のバッジに注目)

異例尽くしの大会となった東京オリンピックが閉会して20日たつ。

アスリートたちの活躍にそれなりに盛り上がりを見せたが、その陰では日本政府、東京都、大会組織委員会、そしてIOCの間の軋轢も明らかになった。大会経費負担などの深刻な問題がなお残っており、今後も様々なトラブルが予想される。大会は終わっても、問題は終わっていないのである。

さて、コロナ禍中の大会で、これまでになく注目されたのがIOC会長の存在であったと思う。単なるスポーツ大会組織の長にとどまらず、まるで一国の元首のような存在感を示すのが、IOC会長だ。

現在の第9代会長は、ドイツ人のトーマス・バッハ。その辣腕ぶりから、一部では「ぼったくり男爵」というニックネームで呼ばれている。今大会でも、その言動がいろいろと話題になった。

さて、東京オリンピックでは準備期間中からなんども来日したバッハ会長。
私はテレビで彼を見るたび、反射的に彼がスーツの襟につけているバッジに目がひきつけられていた。いつも同じバッジをつけているのである。五輪マークに、鳥が羽を広げたような形の、金色のバッジである。

初めは、IOC委員のバッジでもつけているのかな、と漠然と思っていた。
IOCの公式サイトの写真でも、東京オリンピックの開閉会式であいさつしたときも、いつも彼は同じバッジをつけている。いったいこれは何だろう?

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IOC公式サイトに掲載されているバッハ会長の写真

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大会会場を視察するバッハ会長(2020年11月)

さて、東京オリンピックで、日本人メダリストが紹介したツイートがある。

 

 ツイートしたのは、フェンシング・エペ団体で金メダルを獲得した山田優選手だ。

木製のメダルケースの底に、バッジが見えるだろうか。

勲章に略綬(略章)が付属しているように、オリンピックのメダルにはバッジが付いてくるのである。ここでは仮に「メダリストバッジ」と呼ぶことにしよう。
このメダルケースについてはすでに当ブログで詳細を紹介したが、内部構造は知らなかったので、このツイートは私にとってちょっとした発見であった。
なお、リオデジャネイロオリンピックのメダルケースでは、メダルと並んでバッジを収めるようになっている。

badge-culture.hatenablog.com

というわけで、これらの画像で明らかなとおり、バッハ会長のつけているバッジは、オリンピックのメダリストバッジである

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上記写真のバッジ部分の拡大(メダリストバッジ)

彼が自ら1976年のモントリオールオリンピックで獲得した、金メダルに付いていたメダリストバッジであろう。
このバッハ会長のバッジと、今大会のバッジの形は全く同じだ。ただし、厳密にはバッジには大会の年号が入るので、その点は異なる(写真ではよく見えない)。

 

ここで気になるのが、なぜバッハ会長はいつもメダリストバッジをつけているのか、という点である。

歴代の9人のIOC会長のうち、オリンピックメダリストは、バッハ会長のみである。しかも金メダリストだ。当然ながら、オリンピックメダリストバッジは、他の歴代会長は誰もつけていない(サマランチ氏やロゲ氏は何か小さなバッジをつけているが何なのか不明である)。

ところで、バッハ氏の経歴を調べてみるとなかなかスゴイ。
1953年生まれで、少年期からフェンシングクラブに参加。大学では法学部に学び、卒業後は司法試験に合格するとともに、法学の博士号を取得、自ら弁護士事務所を設立。有名企業の顧問や役員を数多く勤めた。

その一方、1970年代にはフェンシング選手として活躍し、ドイツ代表として世界選手権にも出場。1976年モントリオールオリンピックでは、フェンシング・フルーレの団体で金メダルを獲得した。

1982年にはドイツオリンピック委員会の委員、1991年にはIOC委員、1996年にはIOC理事、2度のIOC副会長を務めた後、2013年に会長に就任した。

先日、元フェンシング日本代表で銀メダリストの太田雄貴氏が日本人で初めてのIOC委員に選出されたというニュースがあった。しかし、フェンシングのメダリストという経歴を経てIOC委員になった経緯はバッハ会長と共通しているものの、なんというか、かなり差がある。(注:オリンピックの健全な発展のため、太田氏の活躍には期待しています)

ビジネスマンとしてもエリートのバッハ氏だが、IOC会長となった彼にとって、金メダリストという経歴こそ重要なのであろう。それが彼のアイデンティティであり、プライドなのだ。

IOCの会長に就任するような人が、政治力や経済力に無縁な人物でないはずがない。しかしバッハ氏は、IOC会長である正統性を、自身が金メダリストである事実によって主張したいのではないかという気がする。

このメダリストバッジも、メダルに対応して金・銀・銅の3種がある。色が異なるのでバッジの判別は容易である。

でもどうなんだろう、バッハ会長以外でこのバッジつけてる人あんまり見たことない気がするが・・・

これから元メダリストがテレビで出てきたときは、メダリストバッジをつけてないかよく気を付けてみることにしよう。