徽章はバッジにしてピン

世界の徽章文化を考察するブログ。というか、バッジが大好き。コレクションを紹介したり、バッジに関する情報を考察したり。実用性皆無、実生活への寄与度ゼロ保障のブログです。

番外編 東京オリンピック・パラリンピックにおけるメダルケースとリボンの発注情報

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(2016年リオデジャネイロオリンピックのメダルとケース)


東京オリンピックまで、残すところ2年を切って、あと656日。相変わらず報じられる内容を見ていると問題山積というほかない。
開催に対する批判は多い。それでもいろんな課題を克服すべく、本当に大勢の人たちが日夜働いているのだなあと感じることも多いのである。

今回の本ブログ記事は、どちらかといえば無味乾燥な内容である(多分いつもにも増しておもしろくないと思います)。
オリンピック開催を控えた現在、メダル製作に向けてどのような取り組みが行われているのか、公開された情報から読み取ってみたい。

大会組織委員会の公式サイトでは、さまざまなサービス、物品の発注情報が公開されている。
https://tokyo2020.org/jp/organising-committee/procurement/order/

内容は非常に多岐にわたり、大会施設の建設工事から聖火リレー実施運営業務委託、マスコットガイドラインの製作委託、テストイベントの計画立案業務委託、ハンディ型金属探知機の調達業務委託などなど、オリンピックを開催するということは、こんな業務まで必要になるのか・・・と改めてこのイベントの巨大さに圧倒される思いがする。
華やかな舞台の陰に、どれほど大勢の黒子たちが蠢いているのか、そのことにも思いを致したい。

さて、調達情報の中に、
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の入賞メダルリボンの製造委託契約
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の入賞メダルケースの製造委託契約
という発注情報が公開されている。いずれもプロポーザル方式の契約で、デザインや材質なども含めて受注側が提案するわけである。

私が意外に思ったのが、メダル本体と、リボン、ケースがバラバラにデザインされ製作されることだ。てっきりこれらは一括して受注され、製作されるものとばかり想像していたからだ。
しかし、メダル本体はコンペで選ばれ、IOC等の承認も必要なため、一括してプロポーザルにかけることができないのだろう。また、メダル本体、リボン、ケースはそれぞれ素材や製法が異なるため、分けるほうが効率的という事情もあるかもしれない。中小企業でも受注は可能になる。
メダル本体のデザインが決定していない段階で、リボンとケースのプロポーザルが始まるのもなんとなく不思議ではあるが・・・

このサイトでは、委託仕様書や事業者選定実施要領が公開されているので、私は興味深く見た。
各実施要領には、上限価格の記載がある。
リボン:上限単価3,500円×6,000枚×1.08=22,680,000円
ケース:上限単価7,500円×6,000個×1.08=48,600,000円

あくまで上限ながら、リボンやケースの値段がこういうものとは知らなかった。メダル本体抜きでも1万円以上する。意外と高いものだなと思った。
なぜ高いか。どのような製品が求められているのか、仕様書を見てみよう。


【リボン仕様】(表より抜粋)


サイズ:・幅30mm 長さ90-100cm 目安として薄さ1mm程度
重量:・制限なし
材質・素材:・繊維あるいは類似の素材・毛玉になりにくい素材・油脂も含め、汚れがつきにくい素材、色あせ・色落ちがしにくい素材
・3kg前後の重さの物品の加重に耐えうる素材
機能:・パラリンピック入賞メダルリボンは金、銀、銅メダルを識別できるユニバーサルデザインに配慮した仕掛けを施すこと(触覚、聴覚等に訴えられる工夫)
・重量500グラムの入賞メダルを吊り下げることができること
デザイン:・委託者から提供する色・デザインを、素材の特性を生かしつつ可能な限り忠実に再現すること。
・TOKYO2020コアグラフィックスで指定する色を忠実に再現できること。
構造・仕上げ:・メダルとの取り付けに際して、メダル内部の取り付けピン(直径3㎜)をリボン下部に通す予定(別紙1を参照)であることから、リボンの先端に袋縫いを施すこと。ピンの実際の大きさや袋縫い部分の詳細な位置については、別途指定する。
・ほつれが生じないよう、両端を二重縫いにすること



【ケース仕様】


サイズ:下記記載の機能を満たし、かつ、ケース本体の縦・横・高さの総和が80㎝以内に収まること。
重量:規定はない。ただし、軽量かつコンパクトであること。
材質・素材:・規定はない。ただし、以下の要素を踏まえ素材を選定すること。
‐環境基準に配慮したもの
‐落下による破損等がなく衝撃に強いもの
‐気候変動による寸法の変化・経年劣化が少ないもの
‐傷付きにくいもの
・可能な限り単一素材を活用すること。
機能:・以下の物品を収納できるスペースを設けること。
‐メダル1個(本体:直径85㎜厚さ8.5㎜の正円/メダルリボン:幅30㎜長さ90㎝厚み1㎜程度、折りたたんでの収納も可)
‐メダリストピン1個(35㎜四方)
・上記の物品がケース内部で傷ついたり動くことがないよう、しっかりとした仕組みを設けること。
・メダル本体を飾ることができる機能・仕組みを備えること。
デザイン:・東京2020 大会ビジョンや東京2020オリンピックブランドブック及び東京2020パラリンピックブランドブック等と調和すること。
東京2020大会エンブレムをデザインの一部に挿入し施すこと。なお東京2020大会エンブレム使用においては、委託者が提供するエンブレムガイドラインの基準に則ること。
・日本らしさを体現する伝統や先進性を示すデザインとすること。
ケース用外箱(梱包):ケース本体を収納する外箱を、ケース本体と同数作成すること。(費用は単価の内枠。)
・素材は不問とするが、ケース本体が過不足なく収納され、また、本体が外箱内で傷がつかないように外箱内部には、必要に応じてクッション材等を入れること。クッション材は持続可能性に配慮したものとすること。
東京2020大会エンブレムを外箱の一部に挿入し施すこと。



メダル本体のデザインコンペで応募者に求められた「メダルの条件」は、公開されていないのではわからない。しかしここから、本体メダルは「重量500g」程度で、その形状は「直径85㎜厚さ8.5㎜の正円」であることがわかる。

また、オリンピックメダルはテレビで映し出されることもあるとはいえ、リボンやケースについてまで詳しく目にする機会が少ない。その意味でも私は興味深くこれらの調達情報を読んだ。
ケースだって、単なる収納や保護のためだけでなく、「メダル本体を飾ることができる」らしい。

どういう事業者がこういう公募に応じるのであろうか。6,000枚・個程度の製作なら、中小企業でも十分対応できそうにも思う。なんといっても天下のオリンピック大会で自社製品が取り上げられるとすれば、企業イメージや宣伝効果も抜群であろう。・・・
とは思うところが、組織委員会では、たとえ受注事業者であっても、オリンピックに乗じた宣伝行為を厳に禁じているのである。

各「委託仕様書」では、委託者(=組織委員会)の書面による事前承諾なしで次のような行為をすることを禁じている。


・受託者自ら又は受託者商品等、委託者、IOC、IPC、JOC又JPCのいずれかの公式のものである旨、いずれかにより選ばれ、承認され、保証を受け、推奨され、又は表明しようとする行為
・本契約の内容及びその締結の事実について、受託者自身又は受託者商品等の広告・宣伝を持って公表し、又はしようとする行為


つまり、「東京オリンピックで、我が社製品が採用されました!」などと宣伝してはならないのである。
この辺が実にセチガライところで、オリンピックを自社の宣伝に使うことは、オリンピックスポンサー企業だけに認められている権利なのだ。

しかし、宣伝が禁じられているとはいえ、どの企業がいくらで受注するかは、公式サイトで公開される。どんな企業が選ばれるのか、見ていきたいと思う。
11月上旬に決まるらしいので、年内には発表されるだろうか。