徽章はバッジにしてピン

世界の徽章文化を考察するブログ。というか、バッジが大好き。コレクションを紹介したり、バッジに関する情報を考察したり。実用性皆無、実生活への寄与度ゼロ保障のブログです。

日本 全国水平社十四回大会代議員章 ~「写真記録 全国水平社五十年史」の表紙から~

全国水平社14回大会代議員章(昭和12年

こういうのをジャケ買いとでもいうのか。部落解放同盟中央本部編「写真記録全国水平社五十年史」(1971年刊)。この表紙を見た瞬間、目が釘付けになったものである。惹きつけられたといっていい。

表紙には「全国水平社十四回大会代議員章」が大きく写っている。

このバッジ、上部に、下部に五角星と槌鎌といったわが国の革命と解放の象徴が描かれている。中央の文字が描かれている部分は、よく見ると全国水平社のシンボルたる荊冠旗が拡大されているではないか。代議員の「議」の字が独特の略字が当てられているあたりも好ましい。

水平社のシンボルである荊冠旗はあまりにも有名である。日本の古い身分差別の解消を目的とする社会運動が、キリスト教のシンボルをいただいていることを、私は印象深く感じている(私の家がキリスト教に縁が近かったということがあるかもしれないが)。

それはさておき。全国水平社14回大会が開催されたのは昭和12年3月、場所は東京であった。この時代の労働運動バッジの雰囲気にピッタリである。

同年7月には中国で盧溝橋事件が勃発し、日中全面戦争が勃発することになる、そんな時代である。思想や各種結社への取り締まりが強化され、1941年には「言論・出版・集会・結社等臨時取締法」が施行、全国水平社も取締り対象とされていった。

反差別運動も歴史の動乱に巻き込まれていくのである。

なお、この本自体も1971年という熱い政治の時代の雰囲気があふれているが、資料として興味深く、私自身水平社運動をしる良いきっかけとなった。

それにしても、素晴らしいバッジである。欲しいなあ・・・。

 

追記

「写真記録 全国水平社五十年史」の末尾に添えられた「再販にあたって」で、画像の代議員章について以下の記述があるので、記録のため書き留めておく。

(前略)

この「代議員章」は、日本プロレタリア美術家同盟に所属した画家・柳瀬正夢の作である。柳瀬は、1900年1月に松山市に生まれ、小学校以外に学歴はない。1921年「種蒔く人」の創立に同人として参加して以来、わが国プロレタリア芸術運動に対する功績は大きなものがある。その柳瀬正夢の作である。荊と鎖は、部落のおかれている差別と迫害の現実を象徴し、しかもそこからの解放の方向を槌と鎌による部落大衆と労働者の団結、星に見られるその解放の展望を強く打ち出している。いま、全国水平社の先輩が35年間大切に守り抜いて我々に伝えてくれた「代議員章」を前にし、私は先輩たちの苦難な中にも厳しく戦った行動とその思想をおもい、何かこみあげてくるものがある。

この「代議員章」は、当時、水平社運動はもとより日本の無産運動、大衆運動のなかで大きな話題となったということである。それは、1937年という侵略戦争に突入しようとする中での水平社運動だけでなく、1971年という、現在のわれわれの部落解放運動にとっても、多くにものを教えてくれるのではないか。じつに、立派な「代議員章」である。

水平社運動の遺産として、部落解放運動の中でのすぐれた文化遺産として、「全国水平社創立50周年」の記念としてこの「代議員章」をおくる。