徽章はバッジにしてピン

世界の徽章文化を考察するブログ。というか、バッジが大好き。コレクションを紹介したり、バッジに関する情報を考察したり。実用性皆無、実生活への寄与度ゼロ保障のブログです。

日本 銀色名鳩章(大日本軍用鳩協会 昭和16年)

銀色名鳩章(大日本軍用鳩協会 昭和16年

当然ながら、徽章の類というのは人間が身に着けるモノ。が、例外的に、犬、馬などのために製作されたものも、あるにはある。例えば、ある種の賞(警察犬、ドッグショー、競走馬等)の記念として作られたものである。

今回紹介するのは、珍しいことに「鳩」用である。大日本軍用鳩協会の「銀色名鳩章」である。

セットで入手したものだが、要は鳩レースで賞を獲得した記念品であるらしい。裏面に「昭和十六年度 四百粁」の刻印がある。

2つセットで入手したので、漠然と大きい方が正章・小さい方が副章(略章)かと思っていた。にしては、2つの大きさがあまり変わらないのがかすかに違和感ではあったが・・・。

ところが意外や、裏面の文字をよく見れば大きい方には「胡麻」、小さい方には「人名」が刻印されている。さらに、大きい方はリボンにぶら下げる形状で、小さい方は服につける縦型留め具が付いている。

ということはつまり、この大きい方が「ハト用」、小さい方が「飼い主用」、ということなのだ。

いやしかしこれ、銀製のかなり厚みのあるツクリで、鳩が首にかけるにはかなり体力的に負担なのではないかと心配する。まあ受章ハトが日常的にケージでこれを首にかけて生活させられるわけではもちろんなく、式典でちょっと首に掛けさせて記念写真撮るくらいしか使用機会はなかったであろうと想像する。こんなものをハトが首にかけて大空を飛ぶことも困難ではないか。ハトにとっては名誉を感じるどころか、ただ邪魔で重いだけであろう。

面白いのは、大きい方がハト用で、小さい方が飼い主用だということだ。あくまでもハトが主で、人間が従という位置づけである。

このバッジを製作した大日本軍用鳩協会とはなにか。

陸軍省と軍用鳩調査委員会 は、国防資源たる鳩の充実を図ることを目指し、日本伝書鳩協会社団法人帝国伝書鳩協会の合同を提唱した。紆余曲折を経て、昭和13年10月9日をもって帝国伝書鳩協会は解散し、日本伝書鳩協会に合併された。さらに日本伝書鳩協会は昭和14年10月28日、協会名を改称し、社団法人大日本軍用鳩協会となった。(「藤本泰久. 日本軍用鳩年表 5 昭和編 2」より)

協会では、民間で育成された伝書鳩の供出や登録、優良系統の育成や訓練方法等の開発研究を行っていたようである。

なにしろ、新聞各社も1960年代まで伝書鳩を使用していたのである。戦時中、伝書鳩は重要な通信手段であり続けた。

このバッジは、戦時中、400kmもの距離のレースで入賞したのである。400㎞といえば、直線距離で東京と大阪くらいの距離がある。そんなにあの小さなハトが飛ぶのか、と改めてその飛翔能力に驚いていたら、調べたところ400㎞を早ければ4時間程度で戻ってこられるらしい。もちろん、このタイム自体は季節や天候などに大きく影響する。中には1,000㎞に及ぶレースもあるが、こうなると帰還率は1割程度とぐっと下がってくるそうだ。天敵である猛禽類に襲われたり、悪天候で命を落とすものが増えるためである。それにしてもこれほどの距離を戻ってくるハトの能力には神秘を感じる。

もっとも、ハトの能力もさることながら、その能力を引き出すための訓練が重要で、何もしないハトをただ遠くから飛ばしても何の意味もない。ハトの本能を生かし、その訓練法を編み出した人間の技術というも、思えば恐るべきものである。

バッジ本体を見てみよう。中心に真珠、4羽のハトが羽を広げた十字型のバッジである。十字の青と、よく見るとハトの目が赤が、七宝で彩色されている。

厚みのある銀製で、「沖製」という刻印が見える。東京御徒町の徽章メーカー「沖徽章商会」である。全体に高級感漂う一品である。

これは「銀色」名鳩章だが、このほか銅色名鳩章も実は手元に持っている。が、残念ながらこれまで金色名鳩章は、見たこともない。