徽章はバッジにしてピン

世界の徽章文化を考察するブログ。というか、バッジが大好き。コレクションを紹介したり、バッジに関する情報を考察したり。実用性皆無、実生活への寄与度ゼロ保障のブログです。

日本 献盃禁止バッジ

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またまた久しぶりの投稿である。
久しぶりの割には大したネタではないのだが、ちょっとした発見があったので備忘録代わりに書いておこう。

今年もあと2週間あまり。忘年会シーズンで日々宴会に次ぐ宴会・・・という人もいるのではないか。

画像は、「献盃禁止」とある神鏡型バッジである。
私は同様のバッジをすでに持っており、日本における禁酒運動に関するバッジだと何の疑問もなく思い込んでいた。日本の「禁酒バッジ」は、プロテスタント諸派や医学的健康的運動により作成されたものがあるため、とうぜんこの「献盃禁止」もその手のものだろうという認識であったのだ。

このバッジは箱入り状態で入手したもので、その箱中に「盃交換禁止の主趣」という小さな紙(説明書)が入っていた。これを読んで初めて「献盃禁止」の意味することを知った。
驚いた。完全に私の勘違いであった。

説明書には次のようにある。
良いと思ふことは直ちに実行しませう
宴会での盃の交換は伝染病の増加を来さしめますと同時に甚だしき非衛生的であり又最大罪悪であります」

なんと献盃禁止は、禁酒運動とは関係なく、衛生上の理由によるものなのであった。
(私が知らないだけで常識なんですかねこれ・・・。)
ここで献酒が「最大罪悪」とまで糾弾されている理由はなぜか、さて続けて読んでみよう。

「盃の交換によって受くる病毒は

1ライ病 2梅毒 3肺結核其他伝染病

一般民衆が習慣性で日常平気で使用して居る宴席での盃洗の如きは何の消毒用になりますか、此の非衛生的盃洗は「ばい菌」の泉で盃を洗ひ、「ばい菌」の沢山ついた盃を献杯して交換して居るが如きは常識を以て考えられないところの一大悪習であります

盃の交換によつて不知不識に受けた病毒は子孫の為めにも一大罪悪であります、依て此の悪陋を知った以上直ちに盃の交換を禁止致しませうと同時に一般社会へも宣伝して之が実行に全力を尽しませう」

献盃とは、宴席において同じ杯でお互いに酌をして酒をすすめあうこと。現代でも、頻繁に行われているとも思わないが、少なくともある程度以上の世代にとってなじみのある宴会の光景といえよう。
それに対して「一大悪習、一大罪悪、悪陋」と、悪態の限りを尽くしている。

献盃によって伝染する病気の筆頭がライ病(ハンセン病)であることもなんとなく時代を感じさせる。ライ病は伝染力が極めて低い病気であり、少なくとも現代では薬でほぼ確実に抑えられることがわかっている。現代日本においては、ハンセン病は「極めて珍しい」病気なのである。
しかしかつてはその症状の深刻さや治療の困難さなどから非常に恐れられた病気で、ここでも「献盃で伝染する病気」の筆頭に挙げられているのだ。時代だなあ。

そして、このバッジの使用については、
「右主旨御賛同の方は交換禁止章を常に所持して宴席で直ちに胸へつけ之が実行する様務め引ては民衆衛生の向上に資します様御互につとめませう
本会ではこの禁止実行を徹底せしめたいために本記章を沢山作って同志の方へ実費を以て御頒ち申上げますから何卒御利用の上社会民衆衛生の向上の為御宣伝の上実践を挙げられます様御勧め願ひます」

発行者は、「京都高辻室町成徳社会教育委員会 同事務所」とある。
発行年が知りたいところだが、残念ながら不明である。戦前のものらしいとしかわからない。

いやー、知らなかったなあ。意外な発見であった。