徽章はバッジにしてピン

世界の徽章文化を考察するブログ。というか、バッジが大好き。コレクションを紹介したり、バッジに関する情報を考察したり。実用性皆無、実生活への寄与度ゼロ保障のブログです。

中国 新生活運動バッジ

イメージ 1

このバッジが何だかおわかりだろうか。盾型の中にコンパス様のものが描かれている。
蒋介石が全国に号令した「新生活運動」のバッジである。

1934年2月、中国共産党との戦いの最中、蒋介石は新生活運動を発動させた。以後1949年に蒋介石が下野するまで15年にわたって続けられた。
新生活運動とはなにかというと、
「「礼・義・廉・恥」という伝統的な道徳を基本的な精神とし、国民生活の「軍事化・生産化・芸術化(合理化)」を中心目標とし、「整斎(整然さ)・清潔・簡単・素朴・迅速・確実」を実施原則とし、それを「食・衣・住・行」、つまり人々の日常生活に具現化させることによって、近代国家の達成をめざしたものである。」(段瑞聡「蒋介石と新生活運動」)

当時の台湾日日新聞の記事(1934.4.28-1934.5.2)はなかなか興味深い。
新生活運動の実態については、
「新生活運動を操つるものは蒋介石の独裁執行機関である藍衣社であり、新生活運動とは美服を纏った蒋介石の独裁運動に外ならない、藍衣社はこの新生活運動の外に武力統制、文化統制に大活動を続けている」
そして結論として、
「辺境西南を除く全国が藍衣社の前には全く無力化し、今や新生活運動の大旆は怒濤の如く『独裁』へと進展して行く、今こそ藍衣社は死物狂いだ、果して蒋の独裁権確立は成功するだろうか、我々には新生活運動の声が力強い新興の気に満ちているとはどうしても思えない、瀕死の病人に闘病療法を強ているような気がしてならないのだが…」

その通り、といいたい。
独裁権力を確立し、強力な中央集権国家を目指す蒋介石だが、軍閥との小競り合いが絶えないわ、日本との摩擦は増加するわ、共産党が台頭してくるわ、と七難八苦の状態の中、この運動を開始するのである。
でも、大衆運動といえば、共産党の方が遙かにお手のもの。人民共和国成立後もしばしば大衆動員政治を発動していくのであった。

新生活運動も本音のところ、全体主義国家間の浸透と軍事体制の強化が最大の目的であり、「中華民国国旗の配色に「盾」をかたどった新生活運動のシンボルマークからも、その「兵営国家」への強い志向を読み取ることができる」(樹中毅「蒋介石体制の成立」)という。

さて、バッジに戻る。
15年も続いたおかげか、新生活運動バッジは割とよく目にする。多くはシンボルマークの盾型をしている。このバッジはシンボルマークだけのタイプだが、「新生活」や「礼儀廉恥」の文字が入ったモノも多い。
盾の中に描かれているのは、コンパスだろうと思う。常に正しい方角を示すコンパスは、運動のシンボルとしてふさわしいと考えられたのではないか。
裏面には「新生活運動促進会」の文字と、メーカー「南京張祥順造」の菱形の刻印が見える。