徽章はバッジにしてピン

世界の徽章文化を考察するブログ。というか、バッジが大好き。コレクションを紹介したり、バッジに関する情報を考察したり。実用性皆無、実生活への寄与度ゼロ保障のブログです。

日本 大日本蚕糸会三等有功章

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カイコというのはスゴイ虫で、私は学生時代実習でカイコ幼虫の解剖とスケッチをやらされたことがあるが、全身に絹糸腺という糸を作り出すための器官が発達しまくっていて、教授いわく「糸を吐くための怪物」とのことであったが、まさにそれを実感したものだ。
人類が数千年かけて改良に改良を重ねたこの虫は、成虫の蛾となっても、鈍重な身体に比べて貧弱な羽で飛ぶことができない。口器は退化し、エサをとることすらできない。体色は抜け落ち、ほとんど真っ白。もはや、自然界では絶対に生きていくことのできない存在だ。
そして、カイコは、その生命をひたすら糸を吐き出すことだけに費やすのだ。

カイコもスゴイが、この聖なる小さな化け物を作り出してきた人間の執念と努力を思うと、そのかけがえのなさに、なんだか気が遠くなる。愛しい、というのはこういう感情を表すのに使ってもよい言葉だろうか?

さて、近代日本は、このイモムシに頼って近代化を成し遂げたと言ってもいい。
明治維新後の日本は、帝国主義の流れに遅れまいと富国強兵を断行。日清、日露、そして二度の世界大戦を戦った。ひたすらイモムシに糸を吐かせ、膨大な数の貧農の娘達を消耗品としてすりつぶしながら。

おかげで、日本はカイコ研究では世界最先端を行くこととなった。一昔前まで、カイコ学者は英語論文を読む必要がないとまでいわれていたほどだ。カイコは生糸の生産だけでなく、昆虫の性フェロモンや卵の休眠、遺伝の研究など、さまざまな生物学的な研究の素材としてもいまだに欠くことはできない存在だ。

今日のこのメダルは、大日本蚕糸会という歴史ある蚕業振興団体の有功章。これは三等だが、一,二等はさらに派手だ。これは戦前の作。銀製で堂々たる出来栄えだ。
このデザインを見よ。

上部は生糸の束、メダル本体を取り囲むのは6頭のカイコ蛾、中央はカイコの女神(名前忘れた)、女神が手にしているのは桑の葉だ。よく見ると女神はマユの中に入った形になっている。まさに蚕業のエッセンスを全部突っ込んだデザインだ。