徽章はバッジにしてピン

世界の徽章文化を考察するブログ。というか、バッジが大好き。コレクションを紹介したり、バッジに関する情報を考察したり。実用性皆無、実生活への寄与度ゼロ保障のブログです。

日本 支那事変従軍記章

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毎年夏になると、急に戦争関係の特別番組が放映されるが、けっこう興味深いものもあるので、たまにはNHKのドキュメンタリーなどを見ている。

というわけで、季節柄こちらも戦争関係ネタを取り上げることとする。
あまりに数が多く、希少性もなければアリガタミにも乏しいメダルの代表格、支那事変従軍記章である。いかに従軍者の数が多かったかということである。形状が、リボン付きのメダルなので、世間ではこれを勲章と混同しているムキもあるが、決して勲章ではない。一種の紀念メダルに過ぎないので要注意。

ところで、今回ネットで調べてみて、思わず苦笑したのが、表面中央に描かれている八咫烏を、「金鵄」と誤記しているものがあったことだ。軍関係ということで、まあ気持ちはわからんでもないけど・・・。

賞勲局の資料によれば、「支那事変従軍記章解説」に次のように記されている。
記章表面 中央上部に菊御紋章を戴き、配するに八咫烏、軍旗、軍艦旗、瑞雲、及光を以てす。昭和六年乃至九年事変と、支那事変とは相関連せるものなるを以て、其記章もまた『2部作』とするを適当と認め、前事変記章に神武天皇御東征の折の『霊鵄』を配したるにより、今回は同じく御東征の折出現の『八咫烏』を用ふ。共に神の導くままに進む皇軍正義の軍たる事を象徴す」。

昭和六年乃至九年事変従軍記章には「霊鵄」を用いたとあるが、こちらがいわゆる「金鵄」のことである。まあどっちにしても、デザインを見りゃカラスなのかトビなのかくらいは、わかりそうな気もするが、「日本軍のシンボル=金鵄」という思いこむ人もいるわけだ。

思いこみといえば、裏面のデザインにしてもそうだ。ネットでは、「中国大陸の山河が描かれている」などと書かれているモノも頻繁に見かけたが、これもまったく間違い
上記資料によれば、
記章裏面 山、雲、波の文様に支那事変の四字を刻む。山及雲の文様は古鏡より、波文様は上代太刀の鞘の文様より取る」とある。中国大陸とは何の関係もない。

八咫烏にせよ、山や波にせよ、神話や古代遺物のデザインから採用されているのだ。なにかこう、神がかり的な性格が強い。

ところでこの従軍記章は、民間(東京都徽章工業協同組合)で作られた。造幣局でも製造していたかもしれないが、資料不在につき不明。
以前当ブログで紹介した大変興味深い本、「徽章と徽章業の歴史」(東京都徽章工業協同組合)にそのエピソードが登場する。
従軍記章の納品検査で一番やかましい個所は、菊花の御紋章であった。紋章にどんな小さなキズ、スレでもあると不合格品になった。今までの製造の観念からすると、品物を重ねるとキズがつくということになっていた。で、原則としてどの工程にも一個並べの様式で進められていた。ところが、揃えて重ねてみると、一番高い玉座金が重なって、御紋章はその間になり安全なことを発見した。
とある。
実は、この後に技術的な創意工夫の話が延々と続くのだが、残念ながら経験のない私の理解を超える内容なので割愛する。
ともあれ、苦労の末、東京都徽章工業協同組合では、受注した30万個の従軍記章をやりとげたのである。

こうして改めて資料を当たってみると、こんなにありふれた記章でも、いろいろと発見がある。私がそれを実感するのも、このブログを継続しているおかげといえよう。