徽章はバッジにしてピン

世界の徽章文化を考察するブログ。というか、バッジが大好き。コレクションを紹介したり、バッジに関する情報を考察したり。実用性皆無、実生活への寄与度ゼロ保障のブログです。

日本 勲章・褒章の「褫奪」

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あきれたこともあったもので、オリンピック柔道で金メダル2連覇の選手が準強姦容疑で逮捕。もっとも、本人は合意の上だったとかなんとか反論しているし、まだ刑が確定したわけでもない。それでも2児の父としては、刑法上はともかく家庭内には激震が走ることだろう。というか、単純に恥ずかしい。
何しろ金メダルを2個も取った有名選手とあって、出身地の熊本県からは、アテネ五輪の金メダルで県民栄誉賞、さらに北京五輪の金メダルで県民栄誉賞特別賞を授与。2回目の県民栄誉賞特別賞は、彼ために新設された賞である。出身の合志市からも名誉市民賞を贈られた。
国の方からは、紫綬褒章を授与している。

県の対応は素早く、刑の確定を待たず、2つの栄誉賞を剥奪することを決定。特別賞の創設も急遽作ったものだが、剥奪に関してもこれまで規定がなかったのを、今回の事件で新たに設けたという。

一方、紫綬褒章である。
褫奪」という難しい言葉があって、「ちだつ」と読む。勲章や官位等を剥奪することをいう。

明治41年勅令「勲章褫奪令」には、次のような規定がある。

第一条  勲章ヲ有スル者死刑、懲役又ハ無期若ハ三年以上ノ禁錮ニ処セラレタルトキハ其ノ勲等、又ハ年金ハ之ヲ褫奪セラレタルモノトシ外国勲章ハ其ノ佩用ヲ禁止セラレタルモノトス(以下略)

第二条  勲章ヲ有スル者左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ情状ニ依リ其ノ勲等、又ハ年金ヲ褫奪シ外国勲章ハ其ノ佩用ヲ禁止ス
 一 刑ノ執行ヲ猶予セラレタルトキ
 二 三年未満ノ禁錮ニ処セラレタルトキ
 三 懲戒ノ裁判又ハ処分ニ依リ免官又ハ免職セラレタルトキ
 四 素行修ラス帯勲者タルノ面目ヲ汚シタルトキ 」
第六条では、褒章等もこの規定が準用されるとされているので、今回の騒動でもこの規定が適用されることになる。新聞によると、内閣府では、今回の事件の刑の確定を待って対応を決めるとしている。
この規定に従えば、3年以上の懲役実刑で即アウト、それ以下では検討次第、ということになるようだ。

なお、2003~2010年の8年間に、勲章の褫奪は8件、褒章は10件あったという(栗原俊雄著「勲章」による)。勲章も褒章も、年に1回くらいは褫奪されていることになる。意外に多い気がするがどうだろうか。

「褫奪」なんていう漢字、日常生活ではまずお目にかかる機会はなく、私もこれまでの人生で一度も書いたことがない。ところが、ちょっと調べてみるとなかなか意味深い文字である。

」は、音読みでは「」、訓読みでは「うば・う」「は・ぐ」。
字の意味は、「さっとはぎ取る。衣服をはぐように横から取り上げる」。
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「褫」のツクリの字源は、虎の皮を剥ぎ取ることを表しているそうだ。それに衣編をつけることで、官職を示す服を奪うことを表現しているのだろう。

つまり、「剥奪」も「褫奪」も、意味としてはそっくりだが、字源を考えてみると、微妙にニュアンスの違いがある。「褫」の文字は、元々獣の王たるトラの皮を剥ぐことからきている。ただの獣ではない。
そこで、勲章(褒章)など、権威に係るアイテムを取り去ることに関して、この言葉を当てているのであろう。
いかに見事なトラであろうと、その毛皮を剥ぎとってしまえば、ただの肉塊。どんな高官でも、その権威を取り去れば、ただの人。そんなニュアンスが伝わる文字である。

今回の事件の場合、こんな文字を持ち出すまでもないほど低レベルな問題だけど。