徽章はバッジにしてピン

世界の徽章文化を考察するブログ。というか、バッジが大好き。コレクションを紹介したり、バッジに関する情報を考察したり。実用性皆無、実生活への寄与度ゼロ保障のブログです。

日本 野田醤油(キッコーマン)功績賞牌

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さほど気にも留めていなかったバッジなのだが、試しに調べてみたら意外なことが分かったので紹介するとしよう。

縦26×横22mm程度の何気ないバッジである。改めて見てみたら意外にツクリが丁寧できれいなバッジだなあと思った。
正体はわかっている。表面には「功績賞牌」、中央には我々にはなじみのあるキッコーマンマーク、そして裏面にはずばり「野田醤油株式会社」とあるのだから。野田醤油、つまり「キッコーマン」の商標を持つ醤油メーカーである。
醤油の原料たる麦と大豆が描かれており、この表現が実に巧みだ。光沢といぶしの表面加工のコントラストも効果的である。緻密な刻印の確かさといい、それを盾形のフォルムに収めた造形いい、小さなバッジに巧みな技術が光っている。
ついでに言うと、オリジナルのケースがついていて、そこにメーカー名が残っている。このバッジを作ったのは、東京神田の内外徽章製作所である。

うーん、このツクリ、見れば見るほど最近の作ではない。「功績賞牌」などという呼称自体使わないし。
いつ頃作られたものなのか、それが気になったので調べてみた。決定的手掛かりになったのが、意外や、裏面に手彫りで書かれた「贈佐藤良吉君」という人物名であった。

通常、民間企業が作るこの種の記念章(功労章でも功績賞牌でも名称はなんでもよいが)といったものは、勤続30周年のベテラン社員とか引退する役員などに記念として贈ることが多いので、それが社会的著名人であることは少なく、人物名をたどっても何の情報も得られないのである。
・・・と思っていた。

ところが、何の気なしにネットで検索してみると、この人物名がヒットしたのだ。
千葉県教育委員会のサイトには、千葉県所在近代建造物一覧が掲載されていて、佐藤良吉の名が確認できる。彼は建築設計師としてキッコーマン関係の作品を少なくとも2つ手がけている。「キッコーマン株式会社本社(昭和2年」と、「キッコーマン株式会社御用醤油醸造所(昭和14年」である。
ほかにも「茂木本家住宅主屋ほか(大正15年)」が紹介されている。
いずれの建築物も所在地は千葉県野田市内である。

佐藤良吉自身については、「宮大工の流れを汲む建築家」と短い記述がある。茂木本家は、純和風の建物で宮大工の仕事というのもわかる気がするが、キッコーマン本社のほうはアールデコ調の完全な近代建築であり、同じ人物の設計とは思えないほどだ。仕事の幅の広い人物だったのだろう。

というわけで、このバッジの正体は昭和2年または14年、キッコーマンが本社または醸造所の完成の功績に報いるため、設計者に贈ったものであった。竣工の記念行事において渡され、佐藤氏の胸にこのバッジが光っていたかもしれない。

今から78~90年も昔のものである。ケースにしっかり収まっていたせいもあって、今でもそんなに古いものとは思えないほど美しい状態を保っている。

意外なことが分かっておもしろかった。何でも試しに調べてみるものであるなあ。