徽章はバッジにしてピン

世界の徽章文化を考察するブログ。というか、バッジが大好き。コレクションを紹介したり、バッジに関する情報を考察したり。実用性皆無、実生活への寄与度ゼロ保障のブログです。

中国 上海猟友会

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今や日本で猟友会というと「害獣駆除に携わる人」のイメージが強いが、本来はそうではない。
今日のバッジは、「上海猟友会」の会員章であろう。日本国内で入手したもので、戦前、現地にいた日本人の持ち物だと思われる。害獣駆除どころか、イギリス上流階級のような高尚な趣味というほうに近い。

何のことはないバッジに見えて、このバッジ、少しタダモノではない。
通常のバッジとツクリが違うことに気づく。私も一見してなんか違うな、とは思ったものの、ハテなんだろう・・・
とよくよく見たら、これ、象嵌ではないか?

本当に象嵌製かどうか、私は確かめることにした。
まずルーペによる拡大観察。特に文字の部分が特徴的。細い金線を埋め込んで作っていることがわかった。
もっとわかりやすいのが、バッジ本体の材質の検証だ。象嵌は、一般に、硬い金属に金・銀などの柔らかい金属を叩いて埋め込む。調べる方法は簡単、磁石を使えばよい。試してみたら磁石はバッジにピタリとくっついた。実はバッジでは鉄製というのはあまりない。このバッジが鉄で作られているのは、象嵌に必要な素材だからだ。

確認の結果、間違いなく象嵌製バッジと判明。これは珍しい。

このバッジの作り方は、大体次のとおりと思われる。
土台となる鉄板に細かい凹凸をつけてはめ込む金属が食い込みやすくなるよう下地を処理する。
金・銀の薄板を必要な形に切り出し、犬や鳥などのパーツを作る。
切り抜いた形を土台に配置し、叩いて埋め込む。文字は、ピンセットで金線を引っ張りながら、細い槌でコンコンと植線していく。
細かいタガネで、鳥や犬に毛彫りを施す。
薬品で土台の鉄を腐食させ、深みのある黒色に染める。黒い背景によって、金銀の図柄がより映えるようになる。
上海猟友会とはあるものの、中国製ではなく日本製ではないかと考えている。

改めて見てみると、セントバーナードらしき犬や、犬がくわえている鳥など、細かい彫りが施されている。これがないと、図柄が切り絵のようにのっぺりしてしまって立体的に見えないのである。

このバッジは最大幅でも24mmしかない。こんなささやかなバッジにかけられた手間に思いを致したい。

普通のバッジはプレスで同時に多くのバッジを作る。が、象嵌製バッジを作ろうとすれば、何から何まで人の手が完成させていくしかない。文字一つ、線一本、すべて槌でコンコンと叩いて作っていかねばならない

そんな手間暇をかけて、このバッジは作られている。
なぜ?
その思い入れ、それこそが我々の徽章文化を支えてきた正体そのものなのである。