徽章はバッジにしてピン

世界の徽章文化を考察するブログ。というか、バッジが大好き。コレクションを紹介したり、バッジに関する情報を考察したり。実用性皆無、実生活への寄与度ゼロ保障のブログです。

アメリカ メキシコ・オリンピックにおける「抗議パフォーマンス」バッジ

イメージ 1

長いようで短かった北京オリンピックがついに閉幕。それにしても、思えば、このオリンピックを巡ってはいろんな問題がわき起こったものだ。

モスクワオオリンピックやロサンゼルスオリンピックでのボイコット問題など、冷戦の影響を受けた大会も多く、今さら政治とスポーツは別、などということは実際にはあり得ないことは明々白々なのだが、主にチベット騒動を中心として、今回もこの問題が改めてスポットを浴びた。

競技の方に目をやれば、特に印象的だったのは、男子100mと200mで2冠を達成したジャマイカウサイン・ボルトの圧倒的な強さ。ジャマイカ勢に押されて、陸上ではアメリカのメダルラッシュは見られなかった。

ところで、1968年のメキシコオリンピックの200m走で、物議を醸す出来事が生じた。当時、アメリカでは公民権運動が国を揺るがしていた(マーティン・ルーサー・キングが暗殺されたのも1968年)。
男子200m走の表彰式で、金メダルと銅メダルを獲得したアメリカの黒人選手が、アメリカ国歌が演奏される中、表彰台でうつむきながら黒い手袋をはめた拳を突き上げて人種差別に無言の抗議を行ったのである。

イメージ 2

(中央がトミー・スミス、右がジョン・カーロス。左の銀メダリストはオーストラリアのピーター・ノーマン。なお、白人のノーマンも2人の行動に賛意を示し、当初スミスだけがはめる予定だった手袋を2人で分けてはめることを提案したという。写真でもわかるとおり、2人で右左の手袋を交互にはめているのはそのせい。)

アメリカオリンピック委員会は2人を除名処分にするなど厳しい処分を行ったが、アメリカ世論は賛否両論が吹き荒れた。

このバッジは、社会主義労働者党(Socialist Workers Party)という左派政党のキャンペーンバッジらしい。左派の人々は2人はヒーローとして扱い(抗議を行う2人の姿は銅像にまでなった)、逆に右派は非国民のレッテルを貼って糾弾した。

さて、バッジを見てほしい。
このバッジでも、この2人は勇気あるヒーローとして描いている(銀メダリストはトリミング)。
スローガンは「アフリカ系アメリカ人に自決権を」。

北京オリンピックを巡っては、開会前から賛否渦巻く状態となったが、少なくともフィールド上ではこのように激しい抗議活動は行われなかった。
選手たちは、誰よりも政治とスポーツを切り離して自らの戦いに専念した。判定に抗議して審判に蹴りを入れたりはしても、体を張って政治的抗議行動をとるものは誰もいなかった。
時代は変わったのだなあ、としみじみ思う。60年代後半は、自らの力で政治を変えようという熱気が、スポーツ選手も巻き込んでいたのだが。
そして、当時の中国もまた、紅衛兵運動のまっただ中であった・・・。

どうやら、この2人はまだ存命のようであるが、きっと今回の北京オリンピックもどこかで見ていただろうなあ。